蟻喰

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「母」

小学校で停止したあなたの時間
無智で無垢な罪深き偽善者
己の成し遂げ得ない処を吾が子に押し付け
天国への階段を希望の光で包み
吾が子が我に帰ると梯子を外しそっぽ向く
哀れ吾が子は地獄の釜茹でに

清く正しく美しいあなたの庭は
一面のどくだみが異臭を放つ
合法的に義父母を抹殺
罪を負うは老人性痴呆症
あなたはにこやかに葬式写真に収まる

あなたの言葉はいつでも正しい
あなたの行動はいつでも貧しい

理想の男性に巡り合うその日まで
あなたは夫の陰口を叩き
夫の陰に隠れ
己を疑う術も知らずに
姑息な人生を満喫する

60年の歳月はあなたを何者にも変えず
忌み嫌う空間の間隙で
覚えたての陳腐な智識に憚らずひとり愉悦する
さりとて白けた眼に気付く気配もなし
愛を忘れたカナリアは詩さえ歌えず
その忘却自身にも執着しない体たらく

あなたはあなたの信じた路を行くがいい
邪魔するあらゆる障害を押し退けて
残された最後の幸福は
血に染められた義父母の亡霊

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第33号 2001年8月15日発行


「消失」

曙光に染まる幽玄の語呂合わせ
実体なき虚像はうたかたの夢の如し
我悲しむとも誰にも理解されず
廃棄された枝葉に心を置くものなし

されど我は汝を求める
掌から零れ落ちる砂丘の楼閣
乳呑児の愛らしさに
演出された模造を忘却するのみ

チラリズム
サディズム
もうひとつの小京都

星を仰げば君との一期一会
31の宇宙に言の葉を苦心して集め
忘れ易き大衆に我が愛惜を訴えんと試みる
知りたるは己の矮小ばかりなり


「瓦解」

怪奇なるは魔術師の華麗なる乱舞
花咲ける丘に望むべくは崩壊寸前の五重塔
死地に赴く特攻隊員に懺悔する愛すべき狂人
言の葉に沈む楽曲の洪水
吹き荒ぶ嵐に心身脱落し
虚像の彼方に光射す暁の僥倖
幾度となく繰り返される同じ過ち
たかが百年、されど千年

意味と解釈の不確かな概念に捏造された恣意を
死と生の狭間で懊悩する求道者に聖なる去勢を
煩悩に埋もれた愛の賛歌者に隣人の不条理に塗れた殺意を

処女懐胎の秘蹟が脱出口を模索し
堕落したクリスト像を鴉が啄ばむ
万能と謳われた歓喜天に涎を垂らし
群れ集うは巨根を屹立させた花咲かじじい
我を主張する無神論者は
悦楽の岸辺で貧困な紅い絨毯を敷き詰める

ミミズの蠕動が大地を揺るがし
武者震いする哲学の伝道者を根底から覆す
連綿と続く血脈に反旗を翻す気力も失せ
我と我が身に絶望し
呪われた羞恥と赤子を背に断崖を攀じ登る

不可解なるは時間軸に束縛された世紀末
山頂の湖水に映えるは緑色の上弦の月
放棄された約束を齎すは律義者の道楽
嘔吐する一つ眼巨人
腹を割かれるユニコーン
狩猟者の本能が模倣した退廃の建造物
許容量を越えた微小な電気人形
たかが万年、されど億年


「腐敗臭」

静謐の痰壷から覗き込む混沌と錯乱の猶予
我を喪うた者は誰か
絶望の欲情に横溢した苦肉の模擬裁判
輪廻する蝶は羽ばたきを忘却し
汚穢に塗れて死の池の底に沈殿す
彼の小隊を暴露せんと欲するは
散会した老いたる鷹の卑小な呟き


「咆哮」

死を凌ぐ聖の歓喜に堕落した母胎が渦を巻く
新しい預言者と矮小な賢者が逆説を唱え
横溢する良識に鈍色の楔を打ち込む
打ちひしがれたは貴高き諧謔
道化師の布袋から放たれた十字架を背負ったアンチ・クリスト


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