星粒

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【タイトル】
肉体/微酔/春暖/訪問者/待たない/夜の電車/繭玉のあなた/穏やかな目覚め/心のはなびら/白墨の音/感受性

「肉体」

わたしは
あなたにとってある夜
肉体の原型
限りなく
防腐剤の効かない
生きた心臓
どくどくどく
レバーのように
あなたのなかで
うずくまっているかもしれないから
しょせん
人間は
塊に過ぎないと
あなたも知るだろう
わたしの指がどのように曲がろうと
わたしの言葉が優美さを描こうと
すべては
闇の中でゼロに等しい

あなたが
蠢くしるしを見つけたとき
わたしは
捕えられた
動く肉体
比類無き雷鳴の凄みに
怯えもせず
自滅しながら
屍となって
其れが
愛することだったと
悟るだろう

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第67号 2002年4月29日発行


「微酔」

ええ 酔っているわよ
とくだをまきはじめそうな日暮れは
まさか車の運転もしない
夜桜を見過ごした罪滅ぼしに
裸の木の輪郭に抱きついた
木も
呼吸をしている
其れとも
じぶんの心音だろうか
忘れてしまいたい時がある
捻りすぎた今夜の
水呑場の煌きも
それから
人がくれた甘くたたんだ言葉も

わたし酔ってんのよ

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第66号 2002年4月20日発行


「春暖」

猫になってしまいたい
光になってしまいたい
ぬくもりとゆうものがわたしをだめにするまえに
にんげんでいられなくなりそうだ
こんな空は
カマンベールチーズよりも
ねっとりとやさしい
ざわめきたてる風の音ひとつ
響いてはこない

スカートをはいたまま
その上にだれかのあたまを
乗せていたあれはいつ

光になってしまいたい
夢になってしまいたい
翼になってしまいたい
光くゆらす太陽の
わるふざけに
わたしはとうめいの
はるのくらげになってしまいそう

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第62号 2002年3月24日発行


「訪問者」

女のパヒューム
は香り どぎつい悲しみを残す。
かつ かつ と響くセールスレディ
ある意味
尊敬 
家々は雪国の 押し黙った貝のような静けさ。
歯切れのよいセールスレディ
おねがい朝寝坊を大目に見て。

訪問者が隣人の扉を叩くと
留守番の老女に捕まって
甲高い声がきこえる。

サンプルの化粧品を
にゅっとチューブから押し出すと
鏡の前で塗りたくった。
訪問者の靴音が
苛立ちながら
老女の家から遠ざかった。

してやったり
の老女は
サンプルだけもらって
仏教の話を終えた。

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第57号 2002年2月9日発行


「待たない」

待たない。
現れない誰かなんて
待たない。
何処かに居るべきそのひとが
わたしの涙を拭ってくれるなど美しい架空で
押しやったまま忘れた宝石箱の中のリングのよう。

待たない。
愛らしい笑顔の少女が
いつかそっと花びらをいちまいわけてくれる夢。
わたしの子は
小鳥のようににげてゆく。
誰だってひとりが自由。

待たない。
わたしがいつしか
今とはちがう女になるひなんて。
そのときは
墓場にはいるとき。
だから
待たない。

待たない。
遅れたバスなんて。
歩き始めた道に砂埃が立って
実はバスが追ってきても
あっというまに
私なんて木や家とおなじ。
点描に変わり
きえてゆく。

だから
待たない。

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第54号 2002年1月19日発行


「夜の電車」

わたしの燐に
袈裟を着た男が座った。
信心深いわたしでも無いのに
不意に
道ならぬ恋を思い出して
不覚にも涙がにじんできた。
トンネルの暗さや
人々の寝息に
暖かい冬の車両に
わたしは
不意に
あえないひとびとを
反芻していた。
袈裟を着た男に
たずねたい気がしていた。
わたしは
この先どうしましょうか。
袈裟を着た男は
偶然の隣人で
わたしは涙など
女の涙など
以ての外で
まず
念仏を唱えなければいけないのかもしれなくて
両目を閉じると
意識が
袈裟を着た男から離れて
自分の奥へと入ってゆく。

小刻みな振動は
わたしのもつれる心を
弄びながら軋んだ。
そして
袈裟を着た男は
拝もうとする前に
下車してしまった。

夜の電車に
落とし穴があって
わたしの心は
まだ落ちたまま

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第53号 2002年1月12日発行


「繭玉のあなた」

あなたは繭玉のように、純粋な白さの人間になっていた。
不純物のなにひとつない、小さな蒼白したからだ。
飴をちょうだい、飴をちょうだい、渇いた舌に、と子供のような甘えた声をわたしにぶつける。

風の折り目が蒼く、そしてむらさきの色を空につけて、季節の変わり目をあなたは知っていただろうか。
終戦記念日の夜 あなたは眼を覚ます 炎の迫る背中に結わえた、おんぶ紐と、片手に繋がれた幼い子供。
今はミャンマーと呼ぶあの国から夫が帰った夜
髭の痛さに、知らないおじちゃんがきて頬ずりしたよ、と父を忘れた子が駆けてきた。

あなたは繭玉のように小さく、そして忘れたくないことを、つらつらと物語のようにわたしに言って聞かせた。
孫か娘かわたしの真実を確かめもしないまま、聴いてほしいというふうにあなたは。

呼んでおくれひとりで
静かなおまえの町にたずねてゆくよ
行かれないことを予感しているからあなたの手はわたしの袖をぐっと掴むのに、記憶はうつろでいつまでも美しい未来を想像する。

たった幾つぶかの飴玉を宝石のように、大事にてのひらで温めるから溶けかけてきたが、ハンカチにくるんでひきだしにしまう。
繭玉のあなた
繭玉のように
透き通ったあなたの
精神
泪をながしたあとに、また笑う。

【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第34号 2001年8月22日発行


「穏やかな目覚め」

蒼い空でしょうと適当に
想像できる。
わたあめのように髪を膨らませて目覚めたのは
シャンプー後 ドライヤーしなかった。

タオルケットの襞は
わたしのからだを離れがたくさせたけれど
なにか
起きそうで
夏は
隣人の窓辺がしまっているうちに
小さな雑草を抜く。
こころのなかで歌が
母さんのくちずさんだ
懐かしい歌が
わたしの忘れていた
やさしい風鈴のメロディになる。

穏やかな目覚め
それは
あってもいいものだったのに
眠ることさえワスレタひとが
回る地球には
数え切れないすずめのように
たくさん散らばっている。


「心のはなびら」

そのひとの
言葉の音感を想像して見る。
とおく
霞む空の向こうに
なにかが揺れている気がする
それは
わたしのこころの花びら
そっと散らないうちに
ながれていってください
会いたいひとの部屋に。


「白墨の音」

輪をかいて けんけん ぱっつ
つつつつつと
靴を擦ってあるくと 叱られた。

白墨でえがいていった
電車の絵
どこまでもつながる車両
大切な
白墨。
ときには
こわい頑固じいさんの顔を書いてみたり
下町の
塀はそんな絵でいっぱいだった。
白墨
折れた
白墨
おとなに見つかると
雀が散るように
あちこちの路地裏へ
僕達は
逃げ込んで行った
目に沁みる
真っ青な空


「感受性」

僕の内部から
静かにうまれてゆく
といきのような
泡ぶくのような感受性。
いつも
蝶のようにひらひらと
舞う。

僕は
心の中で
大木のてっぺんに登り

見渡したことの無い
広大な何処かを
眺める。

ちいさな蟻のように
這いまわる
些細な事に
虫眼鏡をあてるような感受性を

小鳥を羽ばたかせるように
自由な青い空間に
解き放つ。

そうして
感受性はときには

花の様に
咲き始める。


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