Copyright (C)2002.吉田可遊,All rights reserved
「春」
梅の花が咲いて
空気が甘くなってきた
芽生えたばかりの双葉に掘り起こされた
やわらかい土の香りがする
身体の奥で
寒くて縮こまっていた私が
ゆっくり手足を伸ばす
風が吹くたびに
木々がほおっと吐息をついて
目覚めの知らせをささやきかけてくる
そうだね、もうすぐだね
「野の花」
春の日差しは暖かく
祖母たちの宴はたけなわ
大きくなりすぎた私を祖母たちは笑う
小さくなった丸い背に囲まれ
大きくなりすぎたと私も笑う
小鳥のようにか細くなったもろい手
かつて私を背負ってくれた丸い小さな背中
ゆったりと老いたやさしい仕草
辛酸の中からたくましく幸を拾い上げ
移り行く時の中、静かにひたすら前へと歩み
決して心穏やかな年月ではなかったろうに
皺の刻まれた顔をくしゃりと崩し
からからとかれた声で手をたたいて
なんと気負いなく祖母たちは笑う
なんと晴れやかに笑うのだろう
華やかではない
あでやかではない
美しくもない
けれどそれは命の輝きをしみじみと見せる
さながら荒野に咲く小さな花のような
愛しい笑いだった
【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第62.5号 2002年3月24日発行
「雪降る寒い夜」
やかんがしゅんしゅん言っている
手も足も凍えてつめたい
一人っきりの部屋
しんとした部屋
石油ストーブに寄り添って
真っ赤な炎の真心を覗く
見えるは私の心の裏っかわ
濁った澱が沈む心の底
全部燃えてしまえ
全部消えてしまえ
明日、また笑えるように
「人魚」
ねえ、海へ行こう
ねえ
地球の力から逃げ出して
魚と同じリズムで泳ごうよ
こんこん響く海の音聞いて
私が人間だったこと忘れても
貴方また会いにきてくれる?
ねえ、忘れちゃっても、いい?
足が重くて、地面を歩くの疲れちゃった
空気が軽すぎて、とても不安
もう、戻りたいの
ねえ、忘れちゃっていい?
【Write-Up】文芸サイト応援マガジン 第59号 2002年2月23日発行
| 広告 | [PR] 花 再就職支援 わけあり商品 冷え対策 | 無料レンタルサーバー ブログ blog | |